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光と影の付け方 — 少ない色数で立体に見せる

ドット絵が「なんとなく平面的に見える」とき、原因はほとんどの場合、線でも形でもなく陰影にあります。 影をたくさん塗ったのに立体に見えない、色を増やしたのにかえって濁った、影の向きがパーツごとにバラバラで落ち着かない。 これらはすべて、陰影を「暗い色で塗る作業」だと捉えているために起きます。 陰影は本来、光がどこから来ていて、その面が光にどれだけ正対しているかという一つの理屈を、 限られた色数に落とし込む作業です。

この記事では、まず光源を決めることがなぜすべての前提になるのかから始めて、 陰影を何段に分けるべきかという段数の設計、各段が担っている役割、 影の色を黒で作ってはいけない理由、球や円柱といった形状ごとの塗り分け、 落ち影と陰の違い、そして色数が足りないときにどこから削るかまでを順に解説します。 最後に、画像を自動変換して得られた設計図の陰影を手で整えていく実践手順もまとめます。 読み終わったあとに、自分のドット絵を見て「この影は光源と矛盾している」「ここは段を1つ減らせる」と 判断できる状態を目指します。

1. 光源を決めることがすべての前提になる

陰影の話をするとき、真っ先に決めなければならないのは影の色ではありません。 光がどこから来ているかです。これを決めずに塗りはじめると、 ほぼ確実に絵が破綻します。理由は単純で、光源を決めていない人は 「このパーツはここが暗いと格好いい」という感覚で影を置いてしまうからです。

すると、顔の影は右下に、腕の影は左下に、服の影は真下に、といったように 影の向きがパーツごとにバラつきます。 人間の目は個々の影を意識的に検証しているわけではありませんが、 画面全体の影の向きが揃っているかどうかは無意識に高い精度で読み取ります。 向きが揃っていない絵を見ると、脳は「これは立体ではない」と判断し、 結果として色数をどれだけ使っても平面的な印象しか残りません。 逆に、影の向きさえ揃っていれば、たとえ2色しか使っていなくても立体に見えます。

光源が持つ3つの属性

光源は「方向」だけでなく、次の3つの属性を持ちます。ドット絵では方向と高さを決めれば十分ですが、 硬さを意識できると仕上がりの質が一段上がります。

迷ったら左上45度から

どの方向を選んでも理屈上は正しいのですが、実務上は左上から45度を初期値にするのが安全です。 理由は3つあります。

  1. 斜め45度は明部と暗部の面積バランスが最も良い — 真横からの光は明暗がちょうど半々になり、面の数が2つに見えて平板になります。真上からの光は正面がほぼ均一に照らされ、やはり立体感が出ません。斜め45度なら、明部・中間・暗部の3つの面が自然に生まれます。
  2. 正面光は陰影がほぼ消える — 光源が見る人と同じ側にあると、物体の見えている面すべてに光が当たるため影がほとんど出ません。証明写真がのっぺりして見えるのと同じ原理です。立体を見せたいなら正面光は避けます。
  3. 見慣れている — 既存のドット絵作品の多くが左上光源で描かれているため、見る側の予測と一致し、違和感なく立体として処理されます。

小さいキャンバスでは、方向の選択肢は事実上「左上」か「右上」の2択で十分です。 下からの光は独特の雰囲気(怪しさ、下からの照明)を作れますが、 20×20ドット程度の面積では暗部が広くなりすぎて何を描いているか分からなくなります。

コツ: 光源を忘れないための実践的な方法として、 作業中のキャンバスの隅に光の向きを示す小さな矢印を数ドットだけ打っておき、 完成直前に消す、というやり方があります。 デザイン編集モードのガイド線を使って中心の十字を出しておくと、 左上・右上の判断がぶれにくくなります。

光源が決まると明るさは自動的に決まる

光源を決めたあとは、感覚で塗る必要がなくなります。判断基準は一つだけで、 その面が光源にどれだけ正対しているかです。 光源に真正面から向いている面が最も明るく、90度に近づくほど暗く、 背を向けた面が最も暗くなります。 「ここは影っぽいから暗くしよう」ではなく「この面は光源に対して斜め45度だから中間の明るさ」と 言えるようになれば、陰影で迷うことはなくなります。

2. 陰影は何段にするか — 2段・3段・4段・5段

光源が決まったら、次は明るさを何段階に分けるかを決めます。 ドット絵は色数が有限なので、現実の連続的なグラデーションを何段かに切り分けることになります。 この段数の選択が、そのモチーフの見え方と、消費する色数の両方を決めます。

同じ20×20ドットの球を2段・3段・4段・5段の陰影で描き分けた4枚並びの比較図。光源はいずれも左上。
注目してほしいのは、左端の2段と2番目の3段の差の大きさです。1色足しただけで球が明確に丸くなります。一方、3番目の4段と右端の5段を見比べると、色を1つ多く使っているにもかかわらず印象の差はわずかです。投資対効果が最も高いのは3段目の1色だということが分かります。
段数構成見え方1モチーフの色コスト向いている場面
2段ベース+影面が2つに割れて見え、平面的。色分けされた図形の印象2色アイコン、紋章、遠景の小物、総色数8色以下のパレット
3段ベース+影+ハイライト面が3つになり、曲面として読める。最小限で立体になる3色ほとんどのモチーフの標準。キャラクター、服、道具
4段+反射光(またはコアシャドウ)物体が周囲の環境の中に置かれている感じが出る4色絵の主役、金属や陶器などの質感を見せたいもの
5段以上+コアシャドウや中間色滑らかになるが、3段からの印象差は小さい5色以上大きめのキャンバスで主役1体だけを描くとき

2段から3段への1色が最も価値が高い

2段の絵は、光の当たっている面と当たっていない面の2つしか存在しません。 人間の目はこれを「2枚の平らな面が貼り合わさったもの」と解釈します。 ところが3段目のハイライトを足すと、明るさが「明・中・暗」の3段階になり、 明るさが連続的に変化している=曲面であると脳が解釈しはじめます。 立体感を生んでいるのは色数ではなく、段の「並び方」なのです。

逆に言えば、4段目・5段目を足しても、すでに曲面として読めているものがもっと曲面に見えるわけではありません。 滑らかさは増しますが、印象の変化は小さい。 色数が限られているなら、1つのモチーフを5段にするより、5つのモチーフを3段にするほうが絵全体は良くなります

面積から段数の上限を決める

段数を決めるもう一つの基準が面積です。 1つの段が数ドットしか置けないなら、それは面として認識されず、 ただ散らばったノイズにしか見えません。 目安として、そのモチーフが占めるドット数 ÷ 段数 が 8ドット以上になる範囲に収めます。

注意: 「絵全体で何段にするか」を決めてしまうのは失敗のもとです。 段数はモチーフごとに変えるのが正解で、主役の顔は4段、背景の木は2段、というように予算を配分します。 すべてのパーツを同じ段数にすると、主役と背景の重みが同じになり、視線の行き場がない絵になります。

3. 各段の役割を正しく理解する

段数を増やすときに、どの段から足すべきかを判断するには、各段が何を担当しているかを知っておく必要があります。 5つの段にはそれぞれ明確な役割があり、面積の目安も決まっています。

ベース色(面積の目安 50〜60%)

そのモチーフの「色」を決める主役です。光源に対して斜めを向いている、最も広い面がここになります。 ベース色を先に決めてから他の4段を派生させるのが基本で、 明度は55〜65%あたりに置いておくと、上下に影とハイライトを作る余地が残ります。 最初から明度85%の明るい色をベースにすると、ハイライトが白飛びしてしまいます。

影(シェード/面積の目安 25〜30%)

光源に背を向けている面です。ベース色から明度を20〜25%落とすのが基準値になります。 ベースが明度60%なら影は38〜45%です。10%程度しか落とさないと、離れて見たときに ベース色と区別がつかず、パレットの枠を1つ無駄にするだけになります。 「暗くしすぎたかな」と感じるくらいがちょうど良いことが多いです。

ハイライト(面積の目安 5〜10%)

光源に正対している、最も明るい狭い面です。ベース色から明度を18〜25%上げます。 重要なのは面積で、狭いほど硬く光って見えます。 金属や陶器のようなつるっとした質感なら数ドットの点、 布や木のようなマットな質感なら少し広めに、ただしベース色の1/6以内に抑えます。 初心者がやりがちな「ハイライトを広く塗る」は、絵を白っぽく平坦にする最大の原因です。

反射光(面積の目安 3〜5%)

床や壁、周囲の物体から跳ね返ってきた光が、物体の暗部の縁をわずかに照らしている部分です。 暗部側の輪郭のすぐ内側に、1〜2ドット幅で入れます。 これがあると物体が空間の中に置かれている感じが出て、切り抜き感が消えます。 明度は影より10〜15%明るく、しかしベース色は絶対に超えないのがルールです。 反射光をベース色より明るくすると、そこだけ別の光源があるように見えて形が破綻します。

コアシャドウ(面積の目安 3〜8%)

明部と暗部の境界のすぐ暗部側にある、物体の中で最も暗い帯です。 直接光も届かず、反射光も回り込まない場所なので、影よりさらに暗くなります。 影からさらに明度を10〜12%落とし、球なら三日月状の帯として入れます。 コアシャドウを入れると、暗部が「暗い・より暗い・少し明るい(反射光)」の3層になり、 丸みが一気に説得力を持ちます。上級者の絵が立体的に見える理由の多くはこれです。

明度の早見表

ベース色の明度を60%としたときの、各段の明度の目安をまとめます。 明度100%が白、0%が黒です。数値はあくまで出発点で、質感によって調整します。

明度の目安ベース色との差置く場所
ハイライト80〜85%+20〜25%光源に正対する狭い面
ベース色60%±0(基準)光源に斜めを向く広い面
反射光48〜52%−8〜12%暗部側の輪郭の内側1〜2ドット
38〜45%−15〜22%光源に背を向ける面
コアシャドウ28〜33%−27〜32%明暗の境界のすぐ暗部側

この表を見ると、反射光は影よりも明るい位置にあることが分かります。 つまり暗部の中の明度の並びは、明部側から順に コアシャドウ → 影 → 反射光となり、 輪郭に近づくほど明るくなります。この「暗部の中で輪郭側が明るい」構造が、 物体を丸く見せる決定的な要素です。

4. 影は「黒を混ぜる」のではなく明度を落として色相をずらす

影の色を作るとき、多くの人がやってしまうのが「ベース色に黒を混ぜる」という操作です。 絵の具の感覚としては自然ですが、これをやると仕上がりが確実に濁ります。 黒を混ぜるという操作は、明度と彩度を同時に落とすことを意味するからです。 彩度が落ちた色は灰色に近づき、暗部だけが色味を失って「汚れ」のように見えます。

正しい手順:明度を落とし、色相を回し、彩度を微調整する

色を HSB(色相・彩度・明度)で考えて、次の3つの操作を別々に行います。

  1. 明度(B)を落とす — 影ならベースから20〜25%、コアシャドウならさらに10〜12%。
  2. 色相(H)を回す — 暗部は青紫の方向へ10〜20度、明部は黄の方向へ10〜20度ずらします。
  3. 彩度(S)を調整する — 影は彩度を5〜15%上げ、ハイライトは10〜25%下げます。

色相をずらす理由は物理的な根拠があります。 屋外で影になっている面を照らしているのは太陽の直射光ではなく、 空全体から回り込んでくる青い環境光です。だから影は青紫に寄ります。 逆にハイライトを作っているのは太陽光や電球の光そのもので、これは黄色寄りです。 この2つを再現するだけで、同じ明度でも段違いに自然な陰影になります。

彩度の調整も理屈があります。明度だけを落とすと、人の目には色味が抜けたように見えます。 これを補うために影では彩度を少し上げます。 一方ハイライトは、明るくするほど白に近づくので彩度を下げないと不自然に蛍光色じみて見えます。

具体的な5段の色見本

実際にこのルールで作った5段のランプを挙げます。 スポイトで拾って比べられるよう、明度順ではなく段の役割順に並べています。

モチーフハイライトベース色反射光コアシャドウ
赤い実#F8A060#D8404C#B0405E#8C2C50#5C1C40
緑の葉#D0DC64#58A048#3E7A5E#2C6458#1C4048
青い水#A8E4E0#3C8CC8#4064B4#2C4C9C#1C2C68
木の幹#D8AC70#9C6C40#7C5450#604038#3C2830
白い布#FFFFF4#ECEAF0#CCC8DC#ACA8C4#847C9C

白と黒のモチーフだけは特別な扱いが必要

表の一番下の「白い布」に注目してください。白いものの影を作るとき、 単に明度を落とすと灰色になり、画面全体が死んで見えます。 白の影は薄い青紫にするのが正解です。 上の例では影に #ACA8C4 という、明らかに紫寄りの色を使っています。 単体で見ると「これは白の影ではなく紫では」と感じますが、 白いベース色の隣に置くと、脳がきちんと「白の影」として読み取ります。

黒いモチーフはさらに厄介です。ベース色を #000000 にしてしまうと、 それ以上暗い色が作れず、影を入れられなくなります。 黒いものを描くときは、ベース色を明度15〜20%程度の色 (たとえば #2A2632 のような青紫寄りの濃色)に置き、 そこから上下に振ります。真っ黒は輪郭や最も深い影のためだけに取っておきます。

ツールでの確認方法: デザイン編集モードのスポイトで、 自分の絵の中のベース色と影の色を交互に拾って見比べてみてください。 影の色を単体で見たときに「暗いグレー」に見えるなら黒を混ぜすぎです。 「暗くて青紫寄りの、その色」と言えるなら成功しています。 色ごとのハイライト表示を使うと、その影の色が絵のどこに分布しているかも同時に確認できます。

5. 形状別の陰影の付け方 — 球・円柱・平面・布のひだ

同じ光源、同じ5段のランプを使っていても、形が違えば段の並べ方はまったく変わります。 ここを間違えると「色は合っているのに形が違って見える」という状態になります。 代表的な4つの形について、段の並べ方を整理します。

球 — 同心円状に並べる

球は、光源方向の1点を中心として、そこから遠ざかるほど暗くなります。 段の境界はすべて曲線で、同心円が光源側にずれた形になります。 ハイライトは面ではなくに近く、20×20ドットの球なら3〜6ドット程度です。 コアシャドウは暗部の中央より少し明部寄りに、三日月状の帯として入れます。 そのさらに外側、輪郭のすぐ内側に反射光を1〜2ドット入れると完成です。

円柱 — 縦の帯状に並べる

円柱でよくある失敗が、球と同じ同心円状の陰影を付けてしまうことです。 そうすると、縦に伸びたパイプが「引き伸ばされた玉」に見えてしまいます。 円柱では明るさは横方向にしか変化せず、縦方向には一切変化しません。 段はすべて縦の帯になります。ハイライトも点ではなく、上から下まで貫く縦のラインです。

腕・脚・木の幹・瓶・柱、そして髪の束は、すべて円柱として扱います。 とくに髪は、頭全体を1つの球として塗ってしまう失敗が多い部分です。 髪は複数の円柱(束)の集合と考えて、束ごとに縦の帯で陰影を付けると 一気に髪らしくなります。

光源=左上のとき、横方向に並ぶ段(左→右)

球(水平断面)    H  B  B  S  C  S  R
円柱(水平断面)  B  H  B  S  C  R
                  ↑円柱は左端が少し暗い(縁が丸いため)

H=ハイライト  B=ベース  S=影  C=コアシャドウ  R=反射光

平面(箱・壁・床) — 1つの面に1色

平面の陰影は、実は最も簡単です。 1つの平らな面の中では明度が変わりません。 面ごとに1色だけ使い、面と面の境界で色を切り替えます。 平面にグラデーションを付けると、途端に平面に見えなくなり、 ふくらんだ袋のような印象になってしまいます。

立方体の箱を斜め上から見た場合、見えている面は上面・正面・側面の3つです。 光源が左上なら、明度は次のように配分します。

この15%ずつ2段落とすという配分だけで、箱はきちんと立方体に見えます。 段数でいえば3段しか使っていません。建物や家具、ブロック状のオブジェクトはすべてこの原則で塗れます。

布のひだ — 山と谷を不均等に

布は最も難しい形状ですが、原則は単純です。ひだの山がベース〜ハイライト、谷が影になります。 気をつけるべき点が3つあります。

  1. ひだの間隔を均等にしない — 2ドット、5ドット、3ドット、4ドットのように幅をばらつかせると布らしくなります。等間隔に並べると、縞模様や瓦のように見えてしまいます。
  2. ひだの影は上で細く、下で広がる — 布は重力で下に垂れるため、吊り下げられている点の近くではひだが密で細く、裾に向かって広がります。この「上細下広」の形が布の説得力を作ります。
  3. ひだの数を絞る — 20×20ドットのキャンバスなら、ひだは3〜4本が上限です。それ以上は幅1ドットの縞になってしまい、模様に見えます。

注意: 形状の判断を間違えたまま段数を増やしても、絵は良くなりません。 「色を足したのに立体に見えない」ときは、まずその形が球なのか円柱なのか平面なのかを 言葉にして確認してください。円柱に球の陰影を付けているケースは非常に多く、 これは色をどれだけ増やしても直りません。

6. 落ち影(キャストシャドウ)と陰(シェード)は別物

「影」と一口に言いますが、絵の中には性質のまったく違う2種類の影が存在します。 この2つを区別できていないと、地面の色が不自然になったり、物体が浮いて見えたりします。

項目陰(シェード/フォームシャドウ)落ち影(キャストシャドウ)
正体物体自身の、光が当たらない面物体が光をさえぎって、別の面に落とす影
色のもとその物体のベース色から作る落ちる先の面(地面・壁)のベース色から作る
境界曲面ならゆるやか、平面の折れ目ならシャープ常にシャープ(光源が硬いほど鋭い)
物体の形そのものに従う物体のシルエットが、落ちる面に投影された形
役割物体を立体に見せる物体を空間に接地させる

落ち影の色は「地面の色」から作る

最も多い間違いが、落ち影を物体の色で塗ってしまうことです。 赤いボールの落ち影を暗い赤で塗ると、地面がその部分だけ赤く変色したように見えます。 落ち影は光が届かないだけで、地面そのものの色は変わっていません。 したがって地面のベース色から明度を25〜30%落とし、色相を青紫方向へ15度ずらした色が正解です。 地面が緑の草地なら、落ち影は青緑寄りの暗い緑になります。

物理的には、赤いボールで跳ね返った光が地面をわずかに赤く染めるという現象(カラーブリード)は 確かに起こります。しかしドット絵の限られた色数では、この効果を表現するために1色使う価値は ほとんどありません。無視して構いません。

落ち影の長さは光源の高さで決まる

接地点を暗くすると「浮いている感じ」が消える

物体と地面が接している、まさにその1〜2ドットは、周囲のどこよりも暗くします。 光がまったく入り込めない隙間だからです(アンビエントオクルージョンと呼ばれる現象)。 落ち影全体を描く色数がなくても、この接地点の暗い1〜2ドットだけは入れる価値があります。 これが1本あるだけで、物体が地面に「乗っている」感じが出ます。

逆に、物体を浮かせたい場合はこの手法を反転させます。 落ち影を物体の真下ではなく1〜3ドット離した位置に置き、接地点の暗色を入れません。 すると同じ絵でも、物体が宙に浮いているように読み取られます。 離す距離が大きいほど、高く浮いて見えます。

7. 色数が限られるとき、どこを削るか

ここまでで、フル装備の陰影には5段必要だと分かりました。 しかし実際には、1つの作品で使える総色数には限りがあります。 みんなのデザインスタジオで実際に作業しやすい色数の目安は15〜25色ですから、 登場するモチーフが5つあれば1モチーフあたり3〜4色しか割けません。 そこで必要になるのが、削る順番の判断です。

削る優先順位

順番削る段失うもの統合先
1反射光空間の中に置かれている感じ影に統合する
2コアシャドウ丸みの説得力影に統合する
3中間色(5段目以降)グラデーションの滑らかさ隣接する広い段に統合する
4ハイライト光源の存在感・質感ベース色に統合する
5立体感そのもの(削ってはいけない)

この順番には理由があります。反射光を最初に削るのは、 反射光が「あればより良くなる」情報であって、なくても立体は成立するからです。 反射光を消すと物体はやや切り抜き感が出ますが、丸さは失われません。

一方、ハイライトは反射光よりずっと後に削ります。 ハイライトは光源がどこにあるかを直接示す唯一の情報であり、 これがないと絵の中の光の設定が読み取れなくなるからです。 そして影は絶対に削れません。影を消した瞬間、そのモチーフは平面の色面に戻ります。

ランプ間で色を共有する

削るだけでなく、使い回すという手もあります。 あるモチーフの影の色を、別のモチーフのベース色として使うと、 それだけで1色浮きます。 たとえば明るい茶色の木の影の色と、暗い茶色の土のベース色は、 少し歩み寄れば同じ1色にまとめられることが多いです。

さらに、絵の中の最も暗い色(コアシャドウや輪郭)は、 すべてのモチーフで共通の1色にしてしまって構いません。 暗部では色の判別能力が落ちるため、 赤いモチーフのコアシャドウと緑のモチーフのコアシャドウを同じ暗い紫にしても、 見る側はまず気づきません。これで一気に3〜4色節約できます。

15色での配分例

キャラクター1体と簡単な背景を15色で描く場合の配分例です。

主役の顔だけ4段にしたければ、小物か背景を2色から1色に落として捻出します。 この「どこから1色を持ってくるか」という考え方ができるようになると、 色数の制約がストレスではなく設計の楽しさに変わります。

ツールでの実践: 画像を変換したあとの減色は 「使用数の少ない色を削減」「似た色を統合」の2ステップに加えて、 カスタム手動減色で色を1つずつ選んで統合できます。 この記事の優先順位に従うなら、まず反射光として使われている中間の明るさの色を選んで 影の色に統合するのが最初の一手です。 画面に表示されているカラー数を見ながら、絵が壊れない範囲で段階的に減らしていきます。 詳しい操作はノイズ除去・減色の使い方を参照してください。

8. 自動変換した絵の陰影を手で整える手順

みんなのデザインスタジオで画像をアップロードすると、色番号つきの設計図ドット絵に変換されます。 この変換は明度と色を機械的に量子化する処理なので、 「光源はどこか」という概念を持っていません。 結果として、元画像の写り込みや反射がそのまま影として残り、 光源が2つあるように見えたり、影がまだらになったりします。 ここを手で整えると、同じ元画像でも仕上がりが大きく変わります。

整える手順

  1. 光源の方向を確定する — 変換後の絵を見て、最も明るいドットがまとまっている場所を探します。そこが光源側です。もし明るい場所が2か所に分かれているなら、面積が広いほうを採用し、もう一方は後で潰します。
  2. 色ごとのハイライト表示で分布を確認する — 影として使われている暗い色を1つ選び、それが絵のどこに散らばっているかを見ます。光源側にも同じ暗色が点在していたら、それは元画像の模様やノイズであって影ではありません。
  3. 孤立ドットを潰す — 1〜2ドットしか使われていない中間色を、隣接する広い色に置き換えます。変換時のノイズ除去を「中」か「強」にしておくと、この作業の大半は自動で済みます。残ったものをペンで手作業で消します。
  4. 影の境界を1本の線に整える — 明部と暗部の境界がギザギザに乱れているのが、変換直後の典型です。境界を、2ドット進んで1ドット下がる、といった規則的な階段に打ち直します。境界が整うだけで絵の印象は劇的に良くなります。
  5. ハイライトを絞る — 自動変換ではハイライトが広くなりがちです。面積を半分程度に減らし、光源に最も正対している一点に集めます。減らした部分はベース色で塗りつぶします。
  6. コアシャドウと反射光を足す — 色数に余裕があれば、明暗の境界の暗部側に1段暗い帯を、暗部側の輪郭の内側に1〜2ドットの反射光を追加します。余裕がなければ飛ばして構いません。
  7. 接地点と落ち影を確認する — 自動変換は落ち影を物体の色で塗ってしまうことがあります。落ち影の部分をスポイトで拾って、それが地面の色系統になっているかを確認し、違えば塗り直します。少なくとも接地の1〜2ドットは最暗色にします。
  8. 離れて確認する — 最後に画面から離れて、あるいは目を細めて全体を見ます。この状態で立体に見えていれば完成です。ここで確定させてから、ブロック作業モードでの打ち込みに進みます。

注意: 手作業で陰影を整える前に、いったん作品を保存しておくことをおすすめします。 陰影の修正は試行錯誤になりやすく、「直す前のほうが良かった」と戻りたくなる場面が必ず出てきます。 保存しておけば、比較しながら判断できます。

症状別の対処

症状: 光源が2つあるように見える

元画像に照明が複数あった、あるいは反射やレンズフレアが写り込んでいる場合に起きます。 対処は単純で、採用しないほうの明るい塊をベース色で塗りつぶします。 現実の写真としては正しくても、ドット絵としては光源が1つのほうが必ず読みやすくなります。 色数が減るという副次的な効果もあります。

症状: 影がまだらで、面としてまとまらない

元画像のテクスチャ(布の織り目、肌の質感、木目)が、明度の違いとして拾われている状態です。 対処はノイズ除去を1段階強くして再変換するか、 減色のステップで似た色を統合して段数を減らすことです。 テクスチャは20×20ドット程度では表現できない情報なので、思い切って捨てます。

症状: 立体には見えるが全体が濁っている

影の色の彩度が低すぎるのが原因です。写真は暗部の彩度が落ちて記録されるため、 そのまま変換すると影が灰色になります。 対処は、影として使われている灰色寄りの色を、彩度の高い暗色に置き換えることです。 カスタム手動減色で該当の色を統合してから、デザイン編集モードで塗り直すのが確実です。 第4章の色見本を参考に、青紫寄りの影に差し替えてみてください。

まとめ — 陰影のチェックリスト

最後に、この記事の内容を作業中に見返せる形にまとめます。 自分の絵が平面的に見えるとき、上から順に確認してみてください。

  1. 光源の方向を1つに決めているか。絵の中の全パーツで揃っているか
  2. ベース色と影の明度差は20〜25%あるか(10%程度では足りない)
  3. 最低3段(ベース・影・ハイライト)あるか
  4. ハイライトの面積はベース色の1/6以内に収まっているか
  5. 影は黒を混ぜて作っていないか。色相を青紫へ10〜20度ずらしているか
  6. そのモチーフは球か円柱か平面か、言葉にできるか。円柱に球の陰影を付けていないか
  7. 落ち影を地面の色から作っているか。接地点の1〜2ドットは最暗色になっているか
  8. 色数が足りないとき、反射光→コアシャドウ→中間色の順に削っているか

陰影は、色数を増やすほど良くなるものではありません。 光源という一つの前提を決めて、その理屈に沿って3段を丁寧に置くだけで、 2色分の追加投資で得られるものよりずっと大きな立体感が手に入ります。 まずは手持ちの作品を1つ開いて、影の向きが全パーツで揃っているかを確認するところから始めてみてください。