服を描いたのに、なぜかプラスチックの板に見える。剣を描いたのに、金属というより灰色の紙に見える。 木の机が、ただの茶色い四角にしか見えない。 ドット絵をある程度描けるようになった人が次にぶつかるのが、この「素材が伝わらない」という壁です。 形は合っている、色も間違っていない、それでも見た人が「これは布だ」「これは鉄だ」と感じてくれない。
原因はほぼ例外なく明暗の置き方にあります。質感というのは色の名前で決まるものではなく、 明るい部分と暗い部分がどう並んでいるかという「分布のパターン」で決まっているからです。 この記事では、まずその原理を押さえたうえで、布・金属・木・ガラス・石・肌という代表的な素材について、 具体的にどの数値でどう置けば素材らしく見えるのかを順に説明します。 最後に、写真から自動変換したドット絵で質感が消えてしまったときに、どこに手を入れれば戻せるのかまで扱います。
最初に、この記事全体の土台になる考え方をはっきりさせておきます。 素材の見え方を決めているのは、色そのものではなく、明るさの変化のしかたです。 これは頭で理解するより実験したほうが早いので、簡単な思考実験をしてみましょう。
まったく同じ4色の灰色だけを使って、16×16のマスを塗り分けると想像してください。 使う色は明度でいうと85%・65%・45%・25%の4段です。色相も彩度もゼロ、完全な無彩色です。
この4色を、明るいほうから暗いほうへ、ゆるやかに、境目をぼかすように、 そして輪郭が波打つように不規則に並べると、それは布に見えます。 まったく同じ4色を、今度は縦の帯状に、85%の隣にいきなり25%が来るような急な切り替わりで並べると、 同じ4色なのに金属に見えます。
色は1ミリも変えていません。変えたのは「どの明度がどこに、どんな順番と形で並んでいるか」だけです。 つまり質感とは、パレットの問題ではなく配置の問題なのです。 「金属っぽい色が分からない」と悩んでいる人の多くは、実は色ではなく置き方でつまずいています。
明暗の分布は、次の3つの変数に分解すると扱いやすくなります。素材を描き分けるとき、 実際に自分が調整しているのはこの3つだけだと考えてください。
| 素材 | コントラスト幅 | 隣り合う段の明度差 | 境界の性質 | 並びの方向 |
|---|---|---|---|---|
| 布 | 25〜35% | 10〜15% | ぼやけた・段階的 | ひだに沿って不規則 |
| 金属 | 70〜85% | 40%以上 | くっきり・直線的 | 光源に直交する帯 |
| 木 | 20〜30% | 8〜12% | 細い線状 | 木目の一方向 |
| ガラス・水 | 60〜80% | 30%以上 | くっきり・斜め | 斜めの筋+暗い縁 |
| 石・レンガ | 35〜50% | 15〜20% | 粒状・ランダム | 方向なし+目地の線 |
| 肌 | 15〜25% | 8〜12% | 非常になめらか | 丸みに沿う |
この表は暗記するものではなく、迷ったときに立ち返る基準表として使ってください。 「布を描いているのに金属っぽい」と感じたら、たいてい隣り合う段の明度差が20%を超えています。 逆に「金属を描いているのに布っぽい」なら、明度差が足りていないか、境界に中間色を挟みすぎています。
コツ: 素材が伝わらないときは、色を変える前に「一番明るいドットと一番暗いドットの明度差は何%か」を数えてください。金属なのに40%しかない、布なのに60%ある、という具合に、原因が数値ではっきり見えることがほとんどです。
ここからは素材ごとに、具体的な手順とコツをまとめます。 どのカードも「コントラスト」「境界の作り方」「置く場所」の3点で構成しているので、 自分が描きたい素材のカードだけ読んでもかまいません。
布は光を拡散して反射する素材です。表面に細かい繊維の凹凸があるため、光が一方向に跳ね返らず、 どこから見てもだいたい同じ明るさに見えます。これがドット絵での描き方に直結します。
厚手のウールやフェルトは特にコントラストを抑え、20〜25%程度に収めます。 逆にサテンやシルクのような光沢のある布は、布としては例外的に明るい部分を作りますが、 そのハイライトは金属のような鋭い線ではなく、幅3〜6ドットのゆるい帯にします。
金属は光を拡散させず、鏡のように一方向へ反射します。その結果、表面には 「非常に明るい部分」と「非常に暗い部分」が中間なしで隣り合うという特徴的な見え方が生まれます。 この急な切り替わりこそが金属らしさの正体です。
金属の種類による調整も覚えておくと便利です。金は明度の高い側を黄色寄り、暗い側を赤茶寄りにずらします。 銅・真鍮はさらに赤寄りに。鉄・鋼は明るい側をわずかに青寄り、暗い側を青紫寄りにします。 錆びた金属は、金属のコントラストパターンを保ったまま、明度の中間帯だけを赤茶色に置き換えると、 光沢を失った部分と残っている部分の混在が表現できます。
木材でいちばん重要なのは、明暗の変化が一方向に揃っていることです。 コントラストは布と同じくらい低いのに、木に見えるのはこの方向性のおかげです。
古材・アンティーク調にしたいときは、彩度をさらに10%ほど落として、明度の高い側を灰色寄りにします。 逆にニスを塗った家具のような光沢のある木材は、木目のパターンはそのままに、 表面全体に幅の広い(5ドット以上の)明るい帯を1本重ねると、つやのある印象になります。
ガラスと水は「素材そのものの色がほとんどない」という点で他と大きく違います。 見えているのは、背景の色と、光の反射と、縁で起きる屈折です。 つまりガラスを描くとは、ガラス自体ではなく、ガラス越しの背景を描くことです。
氷は水よりコントラストを上げ、内部に白い直線的な筋(ひび)を数本入れます。 色付きガラス(ステンドグラスや瓶)は、背景色にその色を50〜70%混ぜた色で塗り、 白のハイライトと暗い縁のルールはそのまま適用します。
石は布と金属の中間のコントラストを持ち、方向性がまったくないのが特徴です。 「ランダムなのに均一に散っている」という状態を作るのがポイントになります。
肌はドット絵で最も難しい素材のひとつです。理由は、明度差でほとんど表現できないからです。 肌の情報の多くは色相のわずかな変化に入っています。
小さいキャンバスでは、肌に使える色は2〜3色しかないことがほとんどです。 その場合はハイライトを捨てて、ベース色と赤み寄りの影の2色だけにしてください。 肌にとってハイライトより影の色相のほうがはるかに重要です。
注意: 素材ごとのルールは「その素材だけを大きく描くとき」の話です。キャンバスが小さく、その素材が10ドット四方以下しか占めない場合、木目や石の粒を描き込むと、単なる汚れやノイズに見えます。面積が小さいときは、質感の描き込みは全部やめて、コントラスト幅だけを素材に合わせてください。それだけで十分伝わります。
ここまでの内容を1つだけ持ち帰るとしたら、この章です。 見る人が素材を判断するとき、無意識に最も強く参照しているのはハイライトの形です。 ベース色をどう塗っても、ハイライトの形が合っていれば素材は伝わりますし、逆にハイライトの形が違えば、 他をどれだけ丁寧に塗っても伝わりません。
| 素材 | ハイライトの形 | 面積の目安 | 明度 | 境界の処理 |
|---|---|---|---|---|
| 金属 | 鋭い線状(1〜2ドット幅) | 全体の3〜5% | 90〜100% | 中間色なしで直接ベース色へ |
| 布 | 面状(4ドット以上の塊) | 全体の10〜15% | ベース+12%程度 | 中間色を1〜2ドット挟む |
| ガラス・水 | 白の点、または細い斜線 | 全体の2〜4% | 95〜100% | 直接、周囲は暗め |
| 木 | 幅の広いゆるい帯 | 全体の8〜12% | ベース+10%程度 | 木目の線を跨いで通す |
| 石 | 粒の集まり(面ではない) | 全体の5〜10% | ベース+15%程度 | 粒ごとに独立 |
| 肌 | 小さな面状 | 全体の5〜8% | ベース+10%程度 | 中間色を挟んでなめらかに |
ハイライトは、光源の像がその物体の表面に映ったものです。 表面がなめらかで硬いほど光源の像は縮んで鋭くなり、表面がざらついて柔らかいほど像は広がってぼやけます。 金属の鋭い線は「光源の像がほぼそのまま映っている」状態、 布の広い面は「光源の像が繊維で散らされて広がっている」状態です。 この物理的な理由を知っていれば、表に載っていない素材(革、陶器、毛皮、ゼリーなど)でも、 「これはどのくらい表面がなめらかか」と考えるだけで、ハイライトの形を自分で決められます。
同じ球体を3つ並べて、ベース色も影も完全に同じにしたまま、ハイライトだけを変えてみてください。
【球体のハイライトだけを変えた比較】
A: 布に見える B: 金属に見える C: ガラスに見える
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@ = ハイライト
A: 塊で置く(3×3程度の面)
B: 斜めの1ドット線として置く
C: 点で置き、下側に背景の抜け(..)を作る
AとBの違いは、置いたドットの数ではなく並びが面か線かだけです。 それでも受ける印象は明確に変わります。この実験は10分でできるので、 自分のドット絵に取り入れる前に一度試してみることを強くおすすめします。
コツ: ハイライトを置く位置は、光源に最も近い面ではなく「面の向きが最も光源に対して垂直になっている場所」です。球なら光源側にやや寄った位置、円柱なら光源側の縦帯、平らな面なら面全体がわずかに明るくなります。位置を間違えたハイライトは、質感以前に立体感を壊します。
ハートピアで打ち込むことを考えると、1つの素材に割ける色数はせいぜい2〜4色です。 この制約の中では「何を描くか」より「何を捨てるか」の判断が結果を決めます。 素材感を出すために色を使う優先順位は、次のとおりです。
1つの素材に2色しか割り当てられないときは、次のように考えます。
注意: 色数を節約するために、複数の素材で同じ色を使い回すのは有効ですが、コントラストの性格が違う素材同士では共有しないでください。金属の暗い色を布の影に使い回すと、布のコントラストが跳ね上がって布に見えなくなります。共有するなら、布と肌、木と石のように、性格の近い素材同士にしましょう。
1枚の絵の中に複数の素材が並ぶとき、それぞれを単体で正しく描いても、 隣り合った瞬間に区別がつかなくなることがあります。鎧と服、木の柄と鉄の刃、といった組み合わせです。 これは各素材が正しく描けていないのではなく、素材同士の関係が設計されていないことが原因です。
異なる素材が接する場所には、両方のベース色より25%以上暗い1ドットの線を入れます。 これは輪郭線とは別物で、素材が切り替わることを示す「区切り」です。 この線があると、たとえ両側の色が似ていても、見る側は別の物体として認識します。 逆に、同じ素材が続いている場所(服の袖と身頃など)には、この線を入れてはいけません。
隣り合う素材のコントラスト幅が近いと、質感の違いが読み取れません。 剣を例にすると、刃(金属、コントラスト幅80%)と柄の革(コントラスト幅30%)のように、 幅そのものを2倍以上離すと、色が似ていても素材の違いが伝わります。 逆に、刃も柄も同じくらいのコントラストで塗ると、全体が一体の彫刻のように見えてしまいます。
意外に思われるかもしれませんが、隣り合う素材のベース色の明度は、多少近くてもかまいません。 素材の違いは、ベース色ではなくコントラストの幅と境界の性質で伝わるからです。 むしろベース色の明度を離しすぎると、絵全体がちぐはぐになります。 ベース色は揃え、明暗の振れ幅で分ける——これが複数素材を扱うときの基本方針です。
みんなのデザインスタジオで写真やイラストを変換すると、形はきれいに出ているのに 素材感だけがのっぺりしてしまうことがあります。これには決まった原因がいくつかあり、対処法も決まっています。
ノイズ除去は、孤立した打ちにくいドットを消して作業しやすくする機能ですが、 木目・石の粒・布の織りといった質感は、仕組みのうえではノイズとほぼ同じものです。 数ドット単位の細かい明暗の散らばりだからです。そのため「強」をかけると、消したくないディテールまで消えます。
対処法は、まず「なし」または「弱」で変換して、質感がどこまで残るかを確認することです。 そのうえで、どうしても打ちにくい孤立ドットがある場合は、ノイズ除去を上げるのではなく、 デザイン編集モードの消しゴムやペンで、その数ドットだけを手で直します。 全体設定を上げると全体が失われますが、手で直せば失うのはその場所だけです。
変換方式は3種類あり、それぞれ質感の出方が違います。
| 変換方式 | 特性 | 質感が出やすい素材 | 不向きな素材 |
|---|---|---|---|
| 方式1(標準・知覚色差) | 元画像の色関係を素直に保つ | 肌、布、木など中間調が重要な素材 | くすんだ写真の金属 |
| 方式2(イラスト・シンプル) | 明るさとコントラストを上げる | アニメ調の服、平坦な塗りのイラスト | 暗部の情報が重要な素材 |
| 方式3(高コントラスト) | コントラストと彩度を強調する | 金属、ガラス、水、宝石 | 肌、淡い色の布 |
金属やガラスの質感が出ないときは、方式3を試すのが最短ルートです。 第1章で見たとおり、金属らしさは明暗の急な切り替わりから生まれるので、 コントラストを強調する処理はそのまま金属らしさの強調になります。 逆に、肌が主役の絵に方式3を使うと、頬の陰影が真っ二つに割れて、肌ではなく仮面のように見えます。 素材によって方式を選び分けてください。1枚の絵で複数の素材が主役級のときは、 主役の素材に合わせて方式を選び、残りは手で補うと考えるのが現実的です。
減色は2つのステップで行われます。使用数の少ない色を削減するステップと、似た色を統合するステップです。 質感を作っている色は、多くの場合「面積が小さく、しかもベース色によく似た色」なので、 両方のステップで真っ先に消える性質があります。木目の線や石の粒がまさにこれです。
対処は、自動の減色に任せきりにせず、カスタム手動減色で色を選ぶことです。 消してよいのは、質感に関係のない背景の中間色や、輪郭付近に1〜2ドットずつ現れる半端な色です。 残すべきは、木目や粒として意図的に散っている色。 見分け方は、色ごとのハイライト表示を使って、その色がどこに分布しているかを見ることです。 一方向に規則的に並んでいれば木目、全体に均等に散っていれば石の粒、輪郭沿いに点在していれば消してよい色、と判断できます。
意外と多いのがこれです。真正面からフラッシュを当てて撮った写真は、 影がほとんど生まれないため、どんな素材も平坦に写ります。 この場合は変換設定をどういじっても質感は出ません。 斜めから光が当たっている写真を選び直すのが最も確実な対処です。 それが無理なら、変換後にデザイン編集モードのペンで、 第2章のルールに従って明暗を手で足すことになります。
コツ: 手で質感を足すときは、ブロック作業モードの10×10マス単位が便利です。木目や石の粒は「全体に均等に散らす」ことが重要なので、1ブロックずつ埋めていくと分布が偏りにくくなります。1ブロックに粒を3〜5個、と自分でルールを決めて進めると、全体のばらつきが自然に揃います。
原因: 影とベース色の明度差が大きすぎる(20%以上)か、境界に中間色がなく直線的になっている。
直し方: 影を10〜15%差まで戻し、境界に中間色を1列挟みます。さらに影の輪郭を1〜3ドット単位で不規則に崩します。色を足さずに直せることがほとんどです。
原因: コントラスト不足。多くの場合、最も明るい部分が明度70%程度で止まっており、明度90%以上のドットが1つもない。
直し方: 最も明るい帯を明度92%前後まで引き上げ、その隣に明度30%以下の帯を直接置きます。加えて、一番暗い部分の外側に「反射光の明るい帯」を1本足してください。この3手で金属に変わります。
原因: 木目がないか、あっても端から端まで等間隔の平行線になっている。
直し方: 木目を途切れさせ、長さをばらばらにし、節を1つ作ります。それでも足りなければ、板の継ぎ目の暗い線を1本通します。継ぎ目は木目より情報として強いので、狭い面積では継ぎ目だけでも十分です。
原因: 面の中を独自の水色でべた塗りしていて、背景が透けていない。
直し方: 面の中を背景色に置き換え、縁の内側1〜2ドットを暗くし、白の点を2〜3個だけ置きます。ガラスの内側に「ガラス色」を塗らないことが最大のポイントです。
原因: 影に灰色や黒を混ぜている。あるいはコントラストが広すぎる。
直し方: 影の彩度を上げ、色相を赤〜赤紫側に10〜20度ずらします。同時にベース色との明度差を12%程度まで縮めます。肌は「暗くする」のではなく「赤くしてわずかに暗くする」と覚えてください。
原因: 面積に対して描き込みが多すぎる。特に1ドット単位の点を大量に散らしている。
直し方: 描き込みを半分に減らします。木目なら本数を半分に、石の粒なら1ドットの点をやめて2〜3ドットのかたまりだけ残します。質感は「あることが分かる最小限」で十分で、それ以上はノイズにしかなりません。
質感の描き分けは、才能でも観察力でもなく、いくつかのルールの組み合わせです。 最後に、この記事の要点を実践しやすい形でまとめます。
まずは手持ちの作品を1つ開いて、素材ごとに「一番明るいドットと一番暗いドットの明度差は何%か」を数えてみてください。 そこが基準からずれていれば、それが最初に直すべき場所です。 数値で確認する習慣がつくと、感覚に頼らずに質感を組み立てられるようになります。